SSブログ

クラウンとピエロ(1)

クラウンとピエロ(1)

 クラウンの心得

 日本では道化師のことを誰もが「ピエロ」と呼びますね。しかし「ピエロ」という呼称は日本独特のものなのだそうです。英語圏では「クラウン(CLОWN)」。これは「のろま、田舎者」という意味です。このことを知った私は、何か妙な使命感にかられて「クラウン」という呼称を広く知らしめようと、あちこちで触れ回っていました。「ピエロは間違いですよ、クラウンというんですよ」と。でも、どこへ行っても「ピエロのクラウンQさんです」と紹介されてしまいます。子どもたちも可愛く「ピエロさ~ん」と呼んでくれます。そのうち「ピエロ」でも「クラウン」でもどうでもいいなと思うようにもなりました。日本人にとって「クラウン」より「ピエロ」の方が愛着のある呼び名なら、その方がお客さんにとって心地いいなら、それで何の問題もないのです。
 クラウンになろうと思い立ったころ、プロのクラウンさんとネットで知り合いました。そのときにいただいた助言の一つひとつがクラウンとしての私の土台となっています。中でも「All for you ,It's my pleasure」というクラウンの心得は、深く胸に刻んでいつも自分自身に問いかけるようにしています。「自分本位になっていないか、すべてお客さんの喜びを中心に考えているか」というようにです。この言葉を教えていただいたとき、そのクラウンさんはこんなこともおっしゃっていました。「子どもがもしあなたを怖がって泣いたらどうしますか。手を替え品を替えなんとかその子を笑わせようとあなたはするでしょうね。でも、それはまちがいです。もしもあなたの顔や姿を見て子どもが泣いたら、あなたは顔を手で隠し、どこかへ立ち去るべきです。それがこの言葉の意味です」と。だから、「クラウン」でも「ピエロ」でもいいのです。お客さん、中でも子どもさんが気軽に呼べる名前でいいのです。

クラウンとクラウン?

 しかし、それはそれとして「クラウン」と「ピエロ」は何が違うのでしょう。これについては多くの人が説明を試みていますので、今さら私ごときが発言することもないと思うのですが、話題にした責任もありますので、一応私見を述べておきます。

 まず、「クラウン」です。「のろま、田舎者」という意味であることは前に書きましたが、これって明らかに差別的な呼称ですよね。相手をバカにするときに使います。ふつうは自分でこう名乗る人はいません。しかし、「クラウン」たちはあえてこの呼称に甘んじています。いや、むしろみずから「のろまです」と名乗っているのです。私の場合も「田舎者のQでーす」と、大声でふれまわっています(笑)
 つまり、自分から「のろま、田舎者」を演じることで、お客さんの優越感をくすぐり、「あいつ馬鹿だなあ」という笑いを引き出す。これが「クラウン」なのではないでしょうか。初対面の相手にはたいていの人が、なにかしら警戒したり、緊張したりするものです。その警戒や緊張を一瞬のうちに解き、完全に心を開かせるための呼び名と言ってもいいでしょう。相手は「のろま」だと分かっているのですから、そんなに警戒も緊張もいらないのです。そんな屈託のない笑いの提供者が「クラウン」だと思います。
 チャップリンに代表されるような、紳士の出来損ないのコスチュームを身につけている「クラウン」がいます(私もこれを意識しています)ダービーハットは紳士のたしなみですが、燕尾服は小さすぎ、ズボンは逆にダボダボで、丈がツンツルテン。一応ネクタイはしてるけどデザインが変。靴は明らかに大きすぎる……という格好です。昔の日本人なら「やつす」という言葉で表したでしょう。本来の自分の正体を隠し、あえてみすぼらしい格好をして、相手を油断させるための工夫です。もちろん「クラウン」の場合は相手を油断させ、リラックスさせて自然に笑わせることが目的です。他にも首にヒラヒラのついた赤ん坊のような衣裳の「クラウン」や子どものように半ズボン、サスペンダーの「クラウン」がいます。こういう衣裳もまた、お客さんに安心感や優越感を抱かせるようにできています。
 しかしながら、「クラウン」=「のろま、田舎者」と直観的に理解できるのは、あくまで英語圏の人々だけです。日本人のほとんどはそう理解できません。ためしにネット検索してみると、ほとんどが某社の車のことでした。私たちの「クラウン」という言葉への感覚も同じです。ちなみに車の「クラウン」は「CRОWN」で道化の「CLОWN」とは一文字違いです。意味は「王冠」。王様が頭にのせてるアレです。これってかなり皮肉が利いてますよね。英語がへたな私などが発音したら、「L」と「R」の発音ですから、英語圏の人にはどちらのことを言っているのか分からないでしょう。つまり、「道化」と「王様」がごっちゃになってしまいます。これってまさか偶然なんてことはないでしょう。実際、中世のヨーロッパの王宮には「ジェスター」と呼ばれる宮廷道化師が王様のそばに侍っていたとか。そして、彼らは王様のペット的な存在でありながら、人間扱いされていないがゆえに勝手なふるまい、たとえば王様に対等にものを言うことが許されたそうです。また、誰も告げたくない凶事を王様にもたらすのもこの道化師たちの役割だったようです。シェークスピアの「リア王」に出てくる道化「Fool」(愚か者、ばか者)がまさにそれです。「えーそんなこと言っちゃって大丈夫なの?」ということを王様に対して言っています。でも、けして王様を見捨てません。ずっと王様のそばに居続けます。まるで王様という存在の一部でもあるかのように。もちろん、このことは「クラウン」という名称と直接はつながりませんが、誰かがあえて「道化」と「王様」を混同するように仕組んだ名称であれば面白いと思います。
 屈託なく観客を笑わせる「クラウン」という名称とその存在は、実は知的な計算と風刺によって生み出されたものなのかもしれませんね。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。